▶設立趣意書
1.災害情報学研究とは
日本は、 地震・津波・火山・台風・集中豪雨・土砂崩れ等による自然災害が発生しやすい環境にあり、 古来より甚大な被害を受けてきました。それは社会経済が進歩し、世界最先端の科学技術を保持するに至った現在でも変わりがなく、 災害による人的被害・物的被害は毎年のように発生しています。 特に、1995年の阪神・淡路大震災は死者6000余名、ビルや家屋の全半壊、 一部損壊および焼失は20万棟におよぶとされており、高速道路の横転、鉄道や道路の橋梁部での橋桁落下、 大規模な液状化、さらには都市機能を支えるライフラインの断絶など、複合的な都市型災害の恐ろしさを改めて認識させました。
自然災害を未然に防ぐ、もしくは軽減するために不可欠な研究分野として、 災害情報学が挙げられます。災害情報学とは、防災および減災のために必要とされる情報についてその内容・送り手・受け手・伝達方法・情報伝達システム等について研究するものです。その研究対象は平常時から緊急時・復旧時まで、ソフトからハードに至るまで、さらに行政機関から報道機関、事業所・個人まで、すべてを包含した社会全体としています。
情報化が急速に進行しつつある現在、情報伝達技術は日進月歩であり、それを効果的に利用すれば格段かつ確実に防災・減災を実現することが可能となります。一方で、観測・監視技術の向上により、 提供可能な災害関連情報もその種類・質・スピードにおいて大きく発展しつつあります。
しかしながら、情報伝達システムや提供される情報が最大の効果を発揮するためには、自然災害のメカニズムや社会構造(防災組織・災害弱者など)についての知識をもととした総体的研究のもとに、 災害情報が災害対応システムの一環としての機能を確立して行かなければなりません。
また、東海地震など大規模災害の潜在的可能性を有する我が国において 、災害情報研究は平常時から行っておくことのできる重要な防災対策の一つであるといえます。
2.日本災害情報学会の目的
阪神・淡路大震災を契機に、全国の防災情報体制・システムは再検討され、新たな発展の時期を迎えております。 また、大学・研究機関・行政・企業においてもさまざまな専門の研究者・実務者が、 防災・減災実現をめざし、災害情報に大きな関心を寄せています。
各地ではその地域の災害環境にあわせた防災シンポジウムが続々と行われ、 よりよい防災体制を目指した模索が始まりつつあります。 そこで、私たちは、 この研究領域に携わり関心を寄せている研究者・実務者に広く参加を呼びかけ、 研究活動を活発にし、 全国に成果を還元していくことが必要との結論に達しました。
したがって私たちは、 研究の質量両面での充実を図り、 率直かつ現実的な意見を交換し合い、より広く海外も見据えた交流を図り、その成果を防災に携わる研究者・実務者、ひいては全国の一般市民と共有していくために 、 ここに日本災害情報学会を設立しようとするものです。
日本災害情報学会の目的は、防災・減災に効果的な災害情報のあり方を全国に提案していくことにあります。 同時に、災害情報学の基本概念の深化と、現在個別になされている研究についての総合化・体系化を図り、災害情報学という分野を確立することをめざすものです。
災害情報学は、災害にかかわる情報を媒体として各機関・各個人が有機的に結合しあい、 効率よく被害発生を防ごうとする過程の研究であり、過去事例・災害現象の知識・社会構成・各行動主体の心理および行動・各主体の組織的相互作用・実務上の問題など実に複雑かつ多様な領域についての把握と総合化が必要とされます。 それゆえ、既存の学問領域を横断し、災害情報を核としての組織化を進めていくものとします。
私たちは、実効性と可能性に満ちた災害情報について真摯に研究を行い、 その深化・体系化により災害情報学を確立するとともに、研究成果を国民へ還元することを目的としています。ともに防災を志す者として情報交換を行い、率直な意見を交換し合い、その成果を共有する体制としてこの日本災害情報学会を設立するものです。
以上述べたところをご理解いただき、ぜひとも日本災害情報学会へご参加いただけますよう、お願い申し上げます。
1999年4月 日本災害情報学会 会 長 廣井 脩
副会長 河田恵昭
副会長 伊藤和明